仕事術に踊っている理由とそこから抜け出す方法(案)

あまり仕事術の本ばかり読んでいると、朝早起きして、月に何冊もビジネス書を読んで、プレゼンが上手くて、会話術に長けていて、モレスキンを使いこなしていて、iPhoneEvernoteのパワーユーザーになることが前提条件のように思えてきますが、奇妙なほどそれは「なにをすべきか / するのか」という問題の周囲をぐるぐるとめぐってしまいます。第一の真実、それは「なにをすることを選択するのか?」という点なのだと思います。
ライフハックと仕事術で本当に「仕事」ができますか? | Lifehacking.jp

これは重要な指摘です。

以前から私も「仕事術」といったテクニックやノウハウが珍重される風潮に疑問を抱いています。しかし、それが必要とされている時代なのだとも思います。いま仕事術に飛びついているのはフリーランスの人ではなく、むしろ企業に勤めている方が多いのではないかと感じています。

なぜ仕事術がこんなにクローズアップされているように見えるのか、テクニックばかりで実際の仕事は進むのか、そこからどう抜け出せばいいのか考察してみます。

なぜ「仕事術」ばかりクローズアップされているように見えるか

成果主義

「仕事術」が今のように持てはやされるようになったのは、日本に成果主義が導入されて以降のことだと思います。特にこの数年でビジネス本の売り上げが伸び、本で仕事のノウハウを学ぶ若い世代が増えました。

労働環境においては、(特に企業に顕著ですが)横の繋がりが希薄になり、仕事を通して先輩からノウハウを学ぶ機会が減り、若いうちから即戦力としての働きを求められるようになりました。個人のスキルがより問われるようになり、OJT(On the Job Traininng)の機会も減っています。

仕事ではスキルを求められますが、具体的な物差しがないことも問題でしょう。形ばかりの成果主義が、目先の目標をクリアしさえすればよいという安直な考えを助長し、長い期間で物事を捉えにくくしています。

社外・異業種の繋がり

必然的に、向上心のある若い世代は社外に繋がりを求め、そこで仕事で必要なスキルを得ようとします。

しかし社外の人とは、仕事内容を共有できません。従って仕事自体ではなく、上っ面の「テクニック」が共通の話題になります。テクニックに精通していることが、繋がるための重要な要件になっていると言ってもいいでしょう。

「仕事」がない

そこで得たテクニックを駆使して実行する「仕事」があるのか、という点も疑問です。仕事において十分な権限がなく、テクニックを駆使したところで自分で変えられることは少ないと感じている若い世代が多いのではないでしょうか。ただ与えられた「くだらない」仕事を淡々とやるだけ。創造性がなくつまらない仕事です。

そのストレスがさらに「テクニックの習得」という行動に向かわせます。知的好奇心が、仕事にではなくテクニックに向かっている状態です。私がビジネス書を読むようになったのは、まさにこのストレスが原因でした。

つまらない仕事を面白くするために、テクニックでなんとかならないかと模索しているわけです。

本当にクローズアップされているのか

一方で「テクニックばかりに踊らされている」という印象自体が現実かどうかも疑問です。ネット(Twitterやブログ)を通してみると、自分の興味と近い人の言動が引き立ち、世の中のトレンドがそこに向かっているかのように錯覚します。

ネット上では踊らされているように見えるけれど、実際には仕事に打ち込んでいるかもしれません。ネットに現れるのは氷山の一角で、それも極端に分化したものです。

テクニックばかりで実際の仕事は進むのか

これは場合によります。
仕事術の知識を必要としているケースを3つに分けて考えてみます。

  1. 仕事上の具体的問題を抱えている人
  2. 仕事上に不満がある人
  3. 仕事術を知らない人

1の人にとって、仕事術の知識は役立つものになるでしょう。問題が明確になっているから、知識を得た後に本当の仕事に戻ることができるはずです。

2の人にとって、本当の不満は直視しづらく苦痛なものです。そのため仕事術に飛び乗ることで欲求を満たそうとします。本当の仕事に戻りたくないので、仕事は進みません。

3の人にとって、仕事をうまく回すための方法があるという知識は、世界を変える可能性があります。「仕事術」を発信している人たちはこの層に向けてメッセージを発信するべきです。(3の人が、知識を得た後に2の人になる可能性はありますが。)

どう抜け出せばいいのか

3通りのアプローチが考えられます。

  • 仕事上の不満を直視する
  • 仕事術を知らない層に向けて発信する
  • 仕事哲学を発信する
仕事上の不満を直視する

これは主に仕事術を見て実践しようとしている人たちに対するアプローチです。仕事上の不満を直視し、解決すべき具体的な問題として取り組むことです。言葉では簡単に言えるけれども実に難しいことです。

テクニックに踊らされている人は、目的(仕事をする)と手段(テクニックを磨く)がひっくり返っています。また周囲に乗せられて、本当は自分の目的ではないものを目的だと思い込んでいる可能性もあります。(例:αブロガーになるのが成功だ!)

本来の目的に立ち返り、自分の頭で何を成し遂げたいのか考えることが必要です。

仕事術を知らない層に向けて発信する

以下2つは、仕事術を発信している側へのアプローチです。

いま「ライフハック」は一部の熱狂的なファンが楽しむものでしかありません。知らない層へ発信していくことで、ライフハック本来の目的を思い出せるのではないでしょうか。内輪だけで楽しむだけではもったいないですよね。

仕事哲学を発信する

異業種の繋がりにおいてテクニックが「共通話題」であると述べました。これを発展させ、仕事のとらえ方、振る舞い方、人生との向き合い方を哲学にまで高め、それを共通話題にしていこうというアプローチです。時代に流されることのない、ライフハックの芯が生まれる方法ではないでしょうか。

テクニックにとどまらず、とことん行くところまで行きましょう。

最後に

私は仕事上で迷い苦しんでいたときに、ライフハックにすがりつきました。仕事の迷いは解消できませんでしたが、自分の人生は違う方法に開けました。その一端を担ってくれたのも、ライフハックです。iPhoneEvernoteというツール、GTDというテクニックがなければ今の私はないでしょう。

だからこそ「ライフハック(笑)」と言われることが辛いです。テクニックに踊らされているという印象だけで評価されるべきものではなく、もっと発展させられるものだと思っています。

テクニックだけに囚われるのでも、囚われている人を批判するのでもなく、建設的な方向に昇華できればいいなと思っています。ビバ、ライフハック